DTL.asイベントレポート dotimpact(田中孝太郎)さん編
DeskTopLive.asイベントレポート、5回目はdotimpact(田中孝太郎)さんです。
当日は、YouTubeの映像をボールに表示し、物理シミュレーションを使って再生するという作品を見せていただきました。
今回のレポートでは、作品の他に先生としてのdotimpactさんのお話や、ゲームについてのお話もお伺いできました。
(この記事のインタビューは4/21に行いましたが、都合で掲載が遅れてしまいました。dotimpactさん、申し訳ありません)
●作品について
–最初に当日の作品についてお話を聞かせてください。
dotimpactさん(以下 dと略します):元々、僕はあまりFlash系の仕事をしているわけでもないし、趣味でもAS3でガリガリ書くような活動はしてなかったんです。だから、最初「Flashでイベントやるんです」と言われた時「Flashか……どうしようかなと」いう思いでした。
お話をお伺いした時点で、深津さんや新藤さんとAS界ではトップ級のスターが揃ってるっていうことで「僕で良いのかな?」という思いがありつつも、Flash勉強会とはちょっと違ったイベントにしたい・普段AS系のイベントには来ないような人を呼びたいということもお聞きして「飛び道具としてなら何かできるかもしれない」と思い、お受けしたんです。
–意図を汲んでいただいてありがとうございます!
d:以前「AS3でどういうことができるか」というのを調べてた時、”YouTubeが再生できる”、”物理エンジン系がまとまってきてる”というのを知って「物理エンジンを使えば、何か面白い事ができるのでは」ということを考えていました。
ただ作る機会がなかったんで、今回、良い機会だから作ってみようとチャレンジしました。
ライブで面白い物を見せたいということを考え、「音や映像をリアルタイムに操作する」というポイントにしぼりました。そして、1ヶ月弱くらいで「YouTubeをBox2Dで動かす」という作品を一気に作りました。
「YouTubeから拾って来た映像をマスクで丸く切り取ってBox2Dの球にはりつけ、それを落下させてぶつける」というところまでは簡単にできたんですが、これをどう詰めていったらライブとして面白いのかな、プレゼン自体をどうしようかなとギリギリまで悩みました。
当初の目論見としては、まず球を1つずつ落としながら音や映像がバランス良く重なっていき、最後オチとしてドバーっと一気に落としてカオスを作るというようなライブ演奏っぽいものにしようかなと考えてたんですが、当日は説明で始まり説明で終わってしまい、プレゼン内容については「あれでよかったのかなぁ」という不安があります。
–あの作品では、球がぶつかった強さを再生に使っているんですか?
d:そうですね。球がぶつかった時の強さに応じて再生する時間を決めてます。実際はもうちょっと複雑ですが、基本的には球がぶつかった時に再生されて、しばらくすると止まるという仕組みですね。
ただ、YouTubeのストリーミング再生だと、映像を細かくジャンプさせたり、戻してシークしたり、逆再生したりしにくいんです。本当はその辺の細かいところまで出来ると良かったんですが、ここら辺がYouTubeのストリーミング再生で作る限界ですね。
今またYouTubeのgetVideoの仕様が変わっちゃって、作品が動いてないんですよね……
–こちらが何かやりたいタイミングに限って変わるんですよね(笑)
d:あの作品はYouTubeのデータを取得する方法から調べ始めたのですが、検索してもすでに使えない方法が沢山ヒットしました。何度も調べ直すという地味な苦労をしつつ作ったんだけど、また変わりましたね。でも、せっかくなのでこのインタビューが出る頃には作品を直して、また見せれる様にしますね。
d:ただ、あまりFlashが分かってなかったので、当日は結局プロキシ型にしてYouTubeからのデータ取得をFlashの外部に任せちゃったんです。最初、Flash単独でスクレイピングもやろうと思ってたんですけど、クロスドメイン的にダメなのかなと思ってやめたんです。
Flashの基礎的なことから調べて作っていたので、形が決まるまでは「どうしようかなぁ、さすがに何も出来なかったらまずいなぁ」と不安に思っていました。
–でも、出演をお願いした方の中で一番最初に形を見せていただいたんですよ。
d:そうですか(笑) DTLは、僕にとって良い機会でした。
●大学講師としてのdotimpactさん
d:僕は東京芸術大学で教えてるのですが、去年の前期はprocessingの授業をやって、後期はAS3で授業をやってみたんですよ。processingを少し覚えたところで別の言語をやると楽しいかなと思ったのと、Flex SDKで無料になったし良いかなと思って(笑)
–学生さんの反応や手応えはどうでしたか。
d:先端芸術表現科のコンピュータスタジオの設備問題がありまして、未だにPower MacでOSが10.3なんですよ。
そうするとFlash Player 9までしか動かないとか、AS3のシンタックスハイライトがあるエディタが動かないとか、色々な苦労があって学生のとっつきが悪かったです。それにFlex SDKでの制作はprocessingに比べると”環境構築”が大変ですね。
wonderflで作らせるという手も考えたんですけど、wonderflはFlash Player 10じゃないと動かないんですよ。
今年はマシン買うんで、wonderflを使って授業をやろうかなと思っています。
–学生さんは、プログラム初心者の方が多いですか?
d:ほとんどそうですね。
processingだけだと通期の授業がやりにくいので、前期だけで教えてるんです。
なぜかというと、大体一通りの事を教えた後に「ビデオ使えるよ」とか「音が使えるよ」とか細かい技術を教えていっても作品としてあまり広がらないかもと思うし、学生のやりたいこととは違うかもしれないからです。
だったらいっそ、processingを覚えたという成功体験を元に、別言語のAS3を教えたらどうだろうかと考えたんです。
–授業、楽しそうですね。受けてみたいです。
d:今日も午前中は女子美術大学の授業に行ってました。ここは、伊藤ガビンさん繋がりで助手をやって以降ずっと続いています。
女子美術大学は、年度によって受講者数がまばらだし、学生の質というか性格が違いますね。
去年は8人くらい、まじめタイプが集まっていたので細かくみっちりやれてやりやすかったです。
今年は、伊藤ガビンさんが出ていたBRUTUSの授業特集記事の効果で面白そうと思ったのか30人も集まりました。
30人でプログラムの授業ってかなり阿鼻叫喚なんですよね(笑)
工学部の授業だと、TAに授業を手伝わせるというのが常套手段なんですが、女子美術大学では、1人で手取り足取りという感じでプログラムを教えているので、そういう意味では大変ですね(笑)
–どういった授業形式なんですか?
d:女子美術大学の場合は短大なので、演習授業ばかりやるとポートフォリオができません。そこで、ある程度プログラムを教えたところで、その知識を元にオリジナル作品を1つ作りましょうというのを目標に進めています。それも、なるべく形に残って、そのまま面接に持って行けるような作品を作らせるのが良いだろうと考えています。
そのため、学生に自由に作らせると作品が完成しないので、まずは企画の段階でこれなら出来る、出来ない、こうした方が面白いというペーパーワークをふまえてから作品のプログラム制作に入っていきます。
元々、プログラマーを目指している学生ではないので、プログラム自体は力技だったり、全然なってなかったりもするんですが、一般のプログラマーがプログラムでやろうとしないようなものをあえてやってくれるので、面白いんですよね。
–それが、自分の作る物に影響したりしますか?
d:色々影響はありますね。
学生のアイデアの中には、「その作品は、俺が作りたい」とか「アイデアは良いんだけど、まだ技術的に難しいのでは」とか「こうするともっと面白いのに」というものがあります。
ただ、彼女たちのアイデアを元にコミュニケーションしていて生まれた新しいアイデアが誰の物かというのは微妙で、自分の作品にするにはどうかなと思いますしね(笑)
学生達がプログラムに関してそれほどできないことは分かってるので、極端な話、半分以上サポートしても良いかなって思ってるんですけど、アイデアに関しては自分が意見を言い過ぎて自分の好きな作品風にしてしまっていいのかという事は常に葛藤しています。
–学生さんは、「ゲームを作りたい」と言われないですか?
d:よくゲームを作りたいっていう学生もいますが、processingで”こういうゲームは面白いんじゃないか”というプレゼン用のプロトタイプのようなものを作らせています。
ゲームを全部作れっていうと、途中で挫折して何も残らないというケースがあるんです。
ゲームってプログラミングのスキルとして細かいテクニックが必要だし、最終的にある程度ちゃんと形になってないと出来た事にならないので、結構難しいんですよね。
●ゲームとネットワークについて
–ゲームの話が出たので、そのお話を少し聞かせてください。
d:僕自身はゲームが好きですが、作れる訳ではないんです。
98年の大学院の時に、前々から考えていた「ゲームの面白さ」や「メディアとしての新しさ」を自分のサイトに書いていました。
そこには、単にゲームが面白いとか好きではなく、”現代アート”や”デザイン”にも興味を持っていたので「それらの文脈でもゲームを捉えることができるよね」ということを書いていたんです。その時に付けたサイトの名前が「dotimpact」です。
公開してからしばらくすると、当時「パラッパラッパー」を作ってた伊藤ガビンさんから急に「HP面白いですね。何かあったら、また連絡します。」というメールが来ました。僕は中学校時代からゲーム雑誌の「ログイン」読んでた世代なので「すごいスターからメールが来た!」と喜んでたんです。
その頃、僕はゲーム業界に入る訳でもなく、横浜にあるシステム系の企業に推薦で入って丸2年働いていましたが、伊藤ガビンさんから「1回会いましょう」と忘年会に誘われまして。二言、三言、話したと思ったら、翌年の新年に「大学で教えることになったんだけど、サポートできる助手を探してるんだ。誰も思いつかなかったんだけど、助手やんない?でも、仕事あるよね?」というメールが来ました(笑)
「じゃあ、会社辞めて女子美術大学へ行きます」という気持ちになり、3年間限定の専任助手として伊藤ガビンさんと一緒に授業を始めたという経緯があります。
–dotimpactさんはどんなゲームに興味がありますか。
d:僕は、今のゲームよりは、ちょっと昔のシンプルかつシステムとかルールがすごくはっきりしているというゲームが好きなんです。
伊藤ガビンさんもよく言ってますが、「全く世の中になかった新しいゲームが、世の中に受け入れられる可能性があった頃」のゲームが好きです。
そういうこともあって、仕事でWebサービスなどを考える時、未だに過去にはゲームでどういうことがされていたかという事をベースに考えてますね。
–例えば、それはどういうゲームですか?
d:スーパーファミコンやファミコンといった昔の古き良きゲームみたいな世界がありつつ、次世代機といわれたCPUやグラフィック性能があがっていた頃は、2通りのゲームの作り方があったと思っています。
1つは、アイデアは今までとほぼ同じなんだけど、グラフィックがリッチという方向。それが今のPS3やWiiのゲーム世界に繋がっていると思います。
2つめは、今まで作られていたルールを更新するために性能が上がったCPUを使うという方向。僕はそういうゲームが好きです。
CPUの性能を「豪華なグラフィック」に使うではなく「リアルタイムのシミュレーション」に使い、その環境の中でゲームがどういう風に変わって行くのかという事に興味がありますね。
例えば、ナムコの「ミスタードリラー」というゲーム。
昔、ナムコって80年代末に「パックマン」「ゼビウス」などのヒットゲームを毎年出す黄金期と言われる時代がありました。
「ミスタードリラー」というのは、次世代機用に出た割には古き良きナムコのゲームに似せたゲームだったと思います。
「ディグダグ」っていう似た様なゲームがあるんですが、それは定位置に配置された敵を全部倒せばクリアという「ゲームのために用意された世界の中で、やっていいよと言われている事をプレイヤーがはみ出す事が出来ない世界」だったと思うんです。
一方、「ミスタードリラー」は、プレイヤーが穴を掘ると、その隙間を埋めようとして上からブロックがどんどん落ちて来て、それによって別のブロックがつながって一緒に消滅していくという連鎖反応が起きるゲームなんです。
それは、ある種の自然や世の中の有り様と似ていて「バタフライエフェクト」ではないですが、「自分のやったことが回り回って自分に別の被害をもたらす世界」という考え方で作られているのかなと感じるんです。
見た目は昔のゲームに似ているけれども、今のコンピュータ性能で可能なシミュレーションが行われているので、ゲーム対プレイヤーだけではなく、その向こう側にあるシミュレーションされた大きな世界の一部を自分が見ているという世界観に変わったと思います。
ネットワークが出てきて「ネット上で出来る事」がゲームで出来ていた事に近くなった部分ってあると思うんですよ。
ネットゲームは、ゲーム本意に考えすぎちゃってネットゲーマーのためのものになっちゃってるけど、そうではない道もあり得て、それが今のWebサービスと呼ばれる物に形を変えているのではという気がしています。
–昔の書かれていた原稿は、どこかで読めますか?
d:読めますよ。今のサイトの後ろの方に残ってます。
当時の文章なんでその辺は大目に見ていただきたいです。学生が妄想バリバリで書いたことなんで(笑)
今は当たり前になった事や普通にできてる事が昔の記事には書いてあると思うので、今読んで面白いか分からないですが、当時はこういう未来がくるんだ!と思って書いてましたね。
興味があればぜひ読んでください。
●大学院時代に学んで来た事
–大学院では何を研究されてたんですか?
d:当時僕は豊橋技術科学大学の大学院でコンピュータサイエンスの研究をやっていました。
主には並列処理の研究です。並列処理の研究というのは、今で言うクラウドコンピューティングみたいなジャンルです。
大量の仕事をコンピュータ1台でやるとすごい時間がかかるけど、2台あれば半分の時間で済むのでは?と思ったら、必ずしもそうじゃないんです。
なぜかというと、「1、2、3、4」という手順で仕事をしたい場合、「1、2」と「3、4」に切り分けて2人でやろうとすると、「2」の仕事の結果を「3」で使うので「3」からいきなり仕事が始められないんです。そうすると、「1、2」も「3、4」も1人がやるのと変わらない結果になってしまいます。
コンピュータにある仕事を並列でやらせる時に、そういった依存関係が常に問題になります。
それを上手く解決するプログラムを考えたり、コンピュータ自体のパラダイムを丸ごと変えて問題自体をコンピュータが並列化しやすいようにしたりします。
例えばコンピュータ基盤の配線を上手く同時に並列して行う研究をしていました。まず、架空の線を引けるだけ引いておいて、後から目的地に辿り着くにはA線からB線にバイパスして、C線をバイパスする、というような計算をするんです。
–ゲームみたいですね。
d:そうですね。割とそれに近いかもしれないですね。
配線を引くのも、いわゆる迷路を解く「右手法」や「左手法」という、「壁をずっと触りながら歩いて行くとスタートからゴールまでの線が引ける」みたいな考え方を使ってやっていました。
●これからやりたいこと
d:先生や会社員など色々と好きな事やれてるのは、自分なりに”これは新しい”と好きな事を突き詰めて考えてた事が、幸運にも他の人に評価されたという流れがあったからだと思いますね。
–今のゲームには、あまり興味が無いですか?
d:ん〜。いや、……でも、そうかもしれないですね。
単純にゲームに飽きちゃったというのもあるんですけど、当時ゲームについて思っていたような事がある程度実現されて、実現されると「なーんだ」と思ってしまったんです。
今は、ゲームよりもネットワークの方が魅力のある素材になってきて、ゲームの中だけで閉じちゃうよりは、ネットワーク全体で起きるインタラクションやコミュニケーションのほうが当時ゲームに見ていたものがあると思っています。
そういう意味でもネットで、思いついた事を試してみて、気軽に公開し、周りの人に見せるということは続けて行くと思います。
その土台がJavaScriptなのかiPhoneアプリなのかは変わって行くとは思いますけど。
–今は、それらで色々実験されてるんですか。
d:そうですね。iPhoneアプリはまだ具体的にはやってないんですけどね。
これも年齢的な事に関わるんですが、個人的な時間が取りにくい状態になってきて、以前の様に1つの物を根詰めて作りにくい状態になっているので、そういうことが出来る環境をもう一度作るのも目標です。
ただ、難しいのは時間があれば出来るかというとそうでもなくて、技術的にある種の臨界点が来て簡単に作りやすくなるようなタイミングも重要だと思うんです。
時々、やりたい事と技術と世界の状況とが合うタイミングというのがあると思うので、そういうタイミングで何か面白いものを作りたいなと思っています。
僕は、どちらかというと新しい技術が出たらとりあえず全部手をつけてみると言うタイプというよりは、色々な人が色々な事をやっているのを見て、こういうの面白いなとか、こういうのはそうでもないなと考えた中で「これは誰もやってないし、かつ誰もやらなさそうだ」というのをぱっと見つけてそれをやりたいって言うタイプなんです(笑)
また、伊藤ガビンさんとかの影響もあると思うんですけど、どうせ作るのなら、何かの役に立つ物・みんなが熱中できるものを作るというよりは、それを見ると何かの見方が変わるような、それこそ発明になるような何かを作りたいなと思っているところがありますね。
かつ、「ちょっとマヌケ」みたいなものが一番好きですね。
そういう何かを作りたいんですよね。
–ステキですね。楽しみにしています。ありがとうございました。
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いかがでしたでしょうか。イベント当日とはまた違ったdotimpactさんをお伝えできたかと思います。
当日の様子がニコニコ動画(http://www.nicovideo.jp/watch/sm6522913)にアップされているほか、dotimpactさんのブログにも当日のエントリーがありますので、ご覧ください。
さて、DeskTopLive.asイベントレポートは今回が最終回です。次回のイベントDeskTopLive.xnaは9/12開催予定です。ご期待ください!
[この取材は4月21日に行われました]
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